



8月3日付の朝日新聞夕刊に、次のようなタイトルの記事が載った。
「ブレーキ不備のまま公道走行 競技用自転車 摘発急増」。
このところ増えた一般公道を走るピストバイク(以下「ピスト」)について憂えている、のだと思う。
ネットにもダイジェスト版があるので、次のリンクをご参考に。
http://www.asahi.com/car/news/TKY201108070051.html
たしかに、つい最近まで大流行していたピストである。同時に非常に危ない運転をする連中も多かった。私自身もノーブレーキ・ピストについては、以前から危険性を指摘してきたものだ。
ま、最近はちょっと下火になってきたようにも見える。夏になったからかな。ピストは汗をかくからね。
とはいえ、相変わらずナウなヤングを中心に(冗談です)、オシャレ自転車の代表格として見なされているのは確かなことだ。
ただね、この朝日の記事、よく読むと、何だかヘンなんですよ。
本当にピストというものを理解しているのかな? と思う。「この競技用自転車は"ピスト"と呼ばれる種類」とか解説していながら、実は、そのピストを知らないのではないかと思われるのだ。
この中でピスト “だけ” に当てはまるのは、一番最後のブレーキの項目のみだ。1から6番目までのすべては、ピストだけじゃなくロードバイク全般の特徴と考えていい。しかもラストの項目にしたって、ブレーキを外してしまう馬鹿者がいるからこうなっているだけで、少なくとも「公道用のピスト」(?)として店頭販売されているモデルは、前後にブレーキ装着済みのものだけだ。
図版ばかりじゃない。記事本文を読みすすめていくと、さらなる疑問点が浮かんでくる。
まず一つ目は次の部分だ。
10年ほど前から通勤の利用が増えたのは、ロードバイクであります。自転車通勤ブームに伴ってロードレーサーとクロスバイク乗りが急増したのは、このコラムを読む人なら誰しもご承知の通り。この時期、ピストはほぼ皆無だった。
ピストがブームとなったのは、確かに3〜4年前からだ。ただ、このピストブームと、ロードのブームはまったく別物であり、年齢層も完全に異なっている。両者を一緒にすると、全体像がさっぱり分からなくなってくる。
次の記述もかなりヘン。
この記者は、明らかに「ピストにもフリーが入っている」すなわち「ペダルをこぐのをやめたら、自転車は惰力で走っていく」と思っている。
でも、これまた本コラムの読者なら誰もがご承知の通り、そうではないのですよ。ピストというものは、そもそも「こぐのをやめ」ることができないのだ。力を抜いても強制的にこがざるを得ない。なぜならピストの一番の特徴は「固定ギア」にあるからだ。
ペダルとホイールが直結しているから、ホイールがまわっている以上、ペダルは回り続ける。逆に、理論上は、ペダルを止めれば自転車は止まる。ついでにいうと"後にこげば後に進む"のである。
現実には、普通の人には、後ホイールをブレーキ代わりにするほどの脚力はないし、あったとしても、後ホイールがロックして滑ってしまう。
だからして「ノーブレ・ピストが危ない」のは確かだ。が、この記事がヘンな点は、それ以前にある。
この記事は、明らかに「普通のママチャリからブレーキを外してみたら……!」というのと同じ状況を想定している。
以上のことから既にお気づきだろう。
●「特徴」の点、●「10年前から」の点、●「こぐのをやめて速度を緩め」の点、すべてを総合すると、結論はひとつしかない。
要するに、この記者、ピストとロードの区別がついていないのだ。
こういう体たらくで、夕刊社会面のトップ記事が書けてしまうという不毛。おそらくコレを書いた記者は、ドロップハンドルの自転車が危ないわ、きーっ、というだけで、何かを書いてみて、警鐘を鳴らした気分になってみたかっただけなんだろう。
でもね、同じドロップハンドルの自転車でも、その中身はまったく違うのですよ。
たしかに現在のピストブームに問題がないとはいわない。いや、それどころか、問題は山積であって、要はファッションで乗るピスト野郎たちには、ファッション優先ゆえに「ブレーキ外しちまおうぜ」のヤカラが後を絶たないということだ。
ニューヨークのオルタナティブな連中は、そうして乗るからね。 “NO BRAKEこそが、COOLだ” って。でも、本当は “NO BRAKEは、単にNO FUTURE” に過ぎない。現実として、そういう反体制なファッションピスト(=ノーブレーキ・ピスト)が色々なところでシリアスな事故を起こしている。
一度でも乗ってみればはっきり分かるが、特にタマランのは下り坂である。脚力で後ホイールを制御するだけでは絶対に停まれない。そして、東京都心でいうと、下り坂の一番下には必ず交差点があるのだ。ピストはそこに突っ込んでしまう。事故が起きない方が不思議だ。
頼むからやめていただきたい。きちんと前後ホイールにキャリパーブレーキを装着し、スピードを制御しなさい、と言いたい。
一方、逆に言えば、ピストバイクといえど、ブレーキ部分をクリアして、ライトやリフレクター、ベルなど、公道走行の要件を満たせば、普通に走れる。
要は、競技用自転車(この場合ピストのこととして)が悪いのではなく、乗り手が悪いだけなのだ。
ブレーキを付けない自転車乗りが悪い。
違法走行をする自転車乗りが悪い。
当然のことである。
そういう連中に関しては、私ヒキタも警察に厳しい取り締まりを期待している。
しかし、ということは、本記事はただ単に「無法自転車乗りが増えている」ということをいえばいいだけではないのか。
図版に「競技用自転車の特徴」などと書いて “WANTED” の手配書よろしく「こんな自転車に要注意」みたいな記事を書く必要があるのだろうか。
しかも、その特徴も頓珍漢なら、指摘も頓珍漢。つまり、このWANTEDは、デタラメ手配書であるといえる。こういうのが誤認逮捕をよび、冤罪を呼ぶのだ。この場合で言えば、普通のロードバイク乗りは大迷惑である。
朝日新聞は、そういう報道被害を一番嫌う新聞ではなかったのだろうか。
そもそもの大前提で言うなら、 “競技用自転車” には、マウンテンバイクがあり、ロードレーサーがあり、シクロクロスバイクがあり、BMXがある。そういう中の1カテゴリーが、ピストバイクであるに過ぎない。大タイトルで「競技用自転車 摘発急増」なんていうのは、あまりにおおざっぱにすぎ、本来は、もうそこからしてフィルターにかけるべきだったのだ。ところが、記者も無知ならデスクもデスク。こんなタイトルがものの見事にスルーだ。
朝日新聞社たるもの、そのあたりのこと、どう考えているのだろうか。
「ブレーキ不備のまま公道走行 競技用自転車 摘発急増」。
このところ増えた一般公道を走るピストバイク(以下「ピスト」)について憂えている、のだと思う。
ネットにもダイジェスト版があるので、次のリンクをご参考に。
http://www.asahi.com/car/news/TKY201108070051.html
たしかに、つい最近まで大流行していたピストである。同時に非常に危ない運転をする連中も多かった。私自身もノーブレーキ・ピストについては、以前から危険性を指摘してきたものだ。
ま、最近はちょっと下火になってきたようにも見える。夏になったからかな。ピストは汗をかくからね。
とはいえ、相変わらずナウなヤングを中心に(冗談です)、オシャレ自転車の代表格として見なされているのは確かなことだ。
ただね、この朝日の記事、よく読むと、何だかヘンなんですよ。
本当にピストというものを理解しているのかな? と思う。「この競技用自転車は"ピスト"と呼ばれる種類」とか解説していながら、実は、そのピストを知らないのではないかと思われるのだ。
◆
たとえば、この記事のメインの図版では、ピストの写真とともに次のような解説が記されている。
競技用自転車(この記事の中では“=ピスト”)の特徴
●軽量でファッション性が高い
●スピードを出しやすい
●タイヤが細く、大きい
●サドルの位置が高い
●ハンドルが下向き
●ペダルに足止めがある
(*ヒキタ註 あ、足止め? 図版を見る限りトゥクリップのことですね。足止めなんて初めて聞いたけど、せめて「あしどめ」と日本語にするならば「足留め」とすべきではないじゃろか?)●ブレーキが無い、または片方の車輪のみ
この中でピスト “だけ” に当てはまるのは、一番最後のブレーキの項目のみだ。1から6番目までのすべては、ピストだけじゃなくロードバイク全般の特徴と考えていい。しかもラストの項目にしたって、ブレーキを外してしまう馬鹿者がいるからこうなっているだけで、少なくとも「公道用のピスト」(?)として店頭販売されているモデルは、前後にブレーキ装着済みのものだけだ。
◆
図版ばかりじゃない。記事本文を読みすすめていくと、さらなる疑問点が浮かんでくる。
まず一つ目は次の部分だ。
この競技用自転車は「ピスト」と呼ばれる種類。スピードが出せるため、10年ほど前から通勤の利用が増えている。3〜4年前からは、ブームとなった。
10年ほど前から通勤の利用が増えたのは、ロードバイクであります。自転車通勤ブームに伴ってロードレーサーとクロスバイク乗りが急増したのは、このコラムを読む人なら誰しもご承知の通り。この時期、ピストはほぼ皆無だった。
ピストがブームとなったのは、確かに3〜4年前からだ。ただ、このピストブームと、ロードのブームはまったく別物であり、年齢層も完全に異なっている。両者を一緒にすると、全体像がさっぱり分からなくなってくる。
次の記述もかなりヘン。
(ピストについて)ブレーキがないものは、ペダルをこぐのをやめて速度を緩め、自転車を止めるしかないという。
この記者は、明らかに「ピストにもフリーが入っている」すなわち「ペダルをこぐのをやめたら、自転車は惰力で走っていく」と思っている。
でも、これまた本コラムの読者なら誰もがご承知の通り、そうではないのですよ。ピストというものは、そもそも「こぐのをやめ」ることができないのだ。力を抜いても強制的にこがざるを得ない。なぜならピストの一番の特徴は「固定ギア」にあるからだ。
ペダルとホイールが直結しているから、ホイールがまわっている以上、ペダルは回り続ける。逆に、理論上は、ペダルを止めれば自転車は止まる。ついでにいうと"後にこげば後に進む"のである。
現実には、普通の人には、後ホイールをブレーキ代わりにするほどの脚力はないし、あったとしても、後ホイールがロックして滑ってしまう。
だからして「ノーブレ・ピストが危ない」のは確かだ。が、この記事がヘンな点は、それ以前にある。
この記事は、明らかに「普通のママチャリからブレーキを外してみたら……!」というのと同じ状況を想定している。
◆
以上のことから既にお気づきだろう。
●「特徴」の点、●「10年前から」の点、●「こぐのをやめて速度を緩め」の点、すべてを総合すると、結論はひとつしかない。
要するに、この記者、ピストとロードの区別がついていないのだ。
こういう体たらくで、夕刊社会面のトップ記事が書けてしまうという不毛。おそらくコレを書いた記者は、ドロップハンドルの自転車が危ないわ、きーっ、というだけで、何かを書いてみて、警鐘を鳴らした気分になってみたかっただけなんだろう。
でもね、同じドロップハンドルの自転車でも、その中身はまったく違うのですよ。
◆
たしかに現在のピストブームに問題がないとはいわない。いや、それどころか、問題は山積であって、要はファッションで乗るピスト野郎たちには、ファッション優先ゆえに「ブレーキ外しちまおうぜ」のヤカラが後を絶たないということだ。
ニューヨークのオルタナティブな連中は、そうして乗るからね。 “NO BRAKEこそが、COOLだ” って。でも、本当は “NO BRAKEは、単にNO FUTURE” に過ぎない。現実として、そういう反体制なファッションピスト(=ノーブレーキ・ピスト)が色々なところでシリアスな事故を起こしている。
一度でも乗ってみればはっきり分かるが、特にタマランのは下り坂である。脚力で後ホイールを制御するだけでは絶対に停まれない。そして、東京都心でいうと、下り坂の一番下には必ず交差点があるのだ。ピストはそこに突っ込んでしまう。事故が起きない方が不思議だ。
頼むからやめていただきたい。きちんと前後ホイールにキャリパーブレーキを装着し、スピードを制御しなさい、と言いたい。
◆
一方、逆に言えば、ピストバイクといえど、ブレーキ部分をクリアして、ライトやリフレクター、ベルなど、公道走行の要件を満たせば、普通に走れる。
要は、競技用自転車(この場合ピストのこととして)が悪いのではなく、乗り手が悪いだけなのだ。
ブレーキを付けない自転車乗りが悪い。
違法走行をする自転車乗りが悪い。
当然のことである。
そういう連中に関しては、私ヒキタも警察に厳しい取り締まりを期待している。
しかし、ということは、本記事はただ単に「無法自転車乗りが増えている」ということをいえばいいだけではないのか。
図版に「競技用自転車の特徴」などと書いて “WANTED” の手配書よろしく「こんな自転車に要注意」みたいな記事を書く必要があるのだろうか。
しかも、その特徴も頓珍漢なら、指摘も頓珍漢。つまり、このWANTEDは、デタラメ手配書であるといえる。こういうのが誤認逮捕をよび、冤罪を呼ぶのだ。この場合で言えば、普通のロードバイク乗りは大迷惑である。
朝日新聞は、そういう報道被害を一番嫌う新聞ではなかったのだろうか。
そもそもの大前提で言うなら、 “競技用自転車” には、マウンテンバイクがあり、ロードレーサーがあり、シクロクロスバイクがあり、BMXがある。そういう中の1カテゴリーが、ピストバイクであるに過ぎない。大タイトルで「競技用自転車 摘発急増」なんていうのは、あまりにおおざっぱにすぎ、本来は、もうそこからしてフィルターにかけるべきだったのだ。ところが、記者も無知ならデスクもデスク。こんなタイトルがものの見事にスルーだ。
朝日新聞社たるもの、そのあたりのこと、どう考えているのだろうか。







